神尾惣八郎(21)(武士)×長坂小輪(小姓)(13)
◎孝行少年小輪
明石から尼崎に向かう使者堀越左近が、生田で急に降り出した雨に難儀していると、12,3歳の美少年が、傘を持ってしかしそれをささずにやってきた。そして左近に「お貸ししましょう」と言って渡したのだった。
左近が「御好意は有難いが、傘を持ちながらご自分が濡れていらっしゃるのはなぜですか?」と問うと、小輪は涙を流しながら、「父が浪人の時病死したので、土地の人のお情けを受けながら、母は世を渡る技に男のする傘細工をしております。それを思うと天の咎めも恐ろしくて傘をささないのです」と言った。
この心がけに感心した左近は、明石に帰るとすぐに殿に小輪のことをお話申し上げた。殿は「すぐに連れて来い」と仰せられ、左近は車で小輪母子を迎えにやった。
◎殿の御寵愛vs小輪真実の恋
殿の小輪を愛することはこの上もなく、ある時は「お前のためならば命を捨てる」とまで仰られたが、小輪はそれを有難いとは言わず、「御威勢に従うのは誠の衆道ではありません。私も心を磨いて、執心を懸けるならば命に代えて親しみ、浮世の思い出に念者を持ってかわいがってみたいです」と言う。殿は苛立ち、その言葉を座興にしてしまおうとしたけれど、「いまの言葉は神に誓って偽りではございません」とまで言う。殿はあきれて、その気性の強さをかえって憎からず思われるのだった。
そんな小輪に、惣八郎という恋人ができた。互いに文で恋心を伝える日々を過ごしていたが、或る晩、とうとう忍びあうことができた。それも殿の御寝所の隣の部屋で(大胆すぎる!!)
手筈通りに忍んで来た惣八郎と会い、まずは帯も解かず、この上もない情けをかけあい(ちとえろいv)、「二世までも」と誓いの言葉を交わした。
その声に殿は目をお覚ましになり、「人音、のがさぬ」と槍を持って駆け出そうとなさるのを、小輪は御袂にすがっていろいろと取り繕い惣八郎を逃がしてやった。殿もようやくお許しになろうという時、金井新平という隠し目付けが「さばき頭に鉢巻をしている男を見ました」と言う。殿が「ぜひとも白状せよ」と仰るので、小輪は「小輪に命をくれた者です。たとえこの身を砕かれても申しません。このことはかねて御耳に入れておきましたのに」と、嘆く様子もなかった。
◎小輪最期
12月15日の朝。家中の見せしめに殿は御自身で長刀をとり、「小輪、最期」とお言葉を掛けられた。小輪はにっこりと笑って「長き御よしみとて、お手にかかること、思い残すことはありません」と言うと、殿は左手を打ち落とされて「今の気持ちは」と尋ねる。小輪は右の手を差し出し、「この手で念者を撫でましたから御憎しみは深いでしょう」と言う。その手も切り落とすと、小輪はくるりと背を向けて「この後姿、見納めに」と言う声も次第に弱まる細首を打ち落とされて、殿はそのまま御涙にくれた。
小輪は妙福寺に埋葬されたが、その念者がいまだ現れないので「侍ではあるまい。野良犬の生まれ変わりだ」と人々は謗りあった。しかし翌年の春、惣八郎は見事、新八に止めを刺し、自分は小輪の塚の前で眠るように腹を切って果てた。「とても恋にそまる身ならば、かくこそあるべけれ」
今回も長くなりましたが、この話は、わたくしの好きな話の一つです。まず小輪ちゃんがよい。健気なのに大胆で強気。13歳なのにしっかりしてて大人だ。21歳の若侍と付き合っちゃうのも頷けます。しかも「こりん」ですよ、か~ゎい~v惣八郎さんも子供扱いしないで真剣に愛してくれています。むしろ尻に敷かれぎみ?ほんとは殿さまを打ちたかったんだろうなぁ。武士の世界は厳しい!
そして殿さま。一番小輪に惚れてたのは、この人だったんじゃないでしょうか。つらいなぁ。小輪ちゃんの最期はあまりにも衝撃的で、印象的で、絶対にまねできない。感動。
☆今日の名文☆
小輪ちゃんの容貌です。「わざとならぬ顔ばせ、遠山に見初る月のごとし。髪は声なき宿烏にひとしく、芙蓉の瞼じり、鶯舌のこはね、梅すなほなる心ざし、次第にあらはれ、出頭日にまし、夜の友となりぬ」
つまり、なにもしていないのに月のように美しく、髪は烏のように黒く、目許は蓮の花、声はうぐいす、気性は梅のように真直ぐだ、というのです。そりゃ、殿も愛でるわな。昼夜を問わずvv
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