梅色夜話

◎わが国の古典や文化、歴史にひそむBLを腐女子目線で語ります◎(*同人・やおい・同性愛的表現有り!!)

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謡曲『松虫』 三

 お待たせしました。謡曲『松虫』第三夜、後段をお送りします。

 *前回まで*
 昔、摂津国・阿倍野のあたりに、仲のいい二人の男がいた。ある秋の夜、その一人の男が松虫の鳴く音に惹かれて松原に入っり、そのままそこで死んでしまった。残されたもう一人の男はすぐさま自害し、あたりの人々は塚を築き、二人を共に埋めたが、自害した男は成仏できずにいた。
 店の常連客である若い男が、実はかつて友を亡くしたその幽霊であると知った酒売は、その跡を弔うことにした。


◎謡曲『松虫』

<<後段>>

 酒売
 「松風の寒く吹き渡るこの阿倍野の原で、仮寝の床で夜通し仏事を続けて、かの男の跡を弔うのは、本当にありがたいことだ」

 酒売が回向(死者の成仏を祈ること)をしていると、その夢の中に男の亡霊が現れる。

 男
 「ああ、ありがたい御回向でございます。秋の霜に枯れる草のように、弱まっていく虫の音を聞くと、昔この世にいた時のことが思い出されて、この野原に朽ち残った幽霊が、こうしてここまで来たのです。あなたの御回向は、本当にうれしく思います」

 酒売
 「すでに日も暮れて、草にも花にも露がたくさんついている野原のかなたを見ると、人影がある。かすかに見えるあの人影は、先ほど逢った人だろうか……」

 男
 「そうです。もともと昔の友を恋しく思い、虫の音に現れて、だからこうして回向を受けるのです」

 酒売
 「ここは難波の里にも近いところで……」

 男
 「阿倍野の市人とも親しくなり……」

 酒売
 「こうして回向する私も……」

 男
 「回向を受ける私も、時代こそ違え、故郷は同じ難波の者。蘆火を焚く屋と市人の家と、住む家は違っても同じ難波人であることに変わりはないのです。それにつけても変わらぬ契りを交わした友のことが偲ばれて忘れられずにいるのです。ああ、なつかしい……」

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謡曲『松虫』 二

 引き続き謡曲『松虫』をお送りします。

*前回のあらすじ*
 摂津国・阿倍野の市で酒を売る男(酒売)は、いつも来る若い男に不審を抱いていた。ある日、その男が「松虫の鳴く音に友を偲ぶ」と言ったのを聞いた酒売は、男にその謂れを尋ねた。


◎謡曲『松虫』

 男
 「昔この阿倍野の松原を、二人連れが通りました。その時ちょうど松虫の声が面白く聞こえましたので、一人の友がかの虫の音を慕って行ったのです。もう一人の友はしばらく待っていましたが、なかなか帰ってこないので、気がかりになって探しに行ってみると、その友は露置く草の上に臥して死んでいたのです。
 『死ぬときは一緒と思っていたのに、これは何ということだろう』と泣き悲しみましたが、どうすることもできません。そのまま友を土中に埋め、それでこのようなことは人に知られることはないと思っていましたが、噂は朽ちることなく『松虫の音に友を偲ぶ』という浮名が世間に漏れてしまったのは悲しいことです。
 今もその友を偲んで、松虫の音に誘われて、こうして町の人間に姿を変えて、亡霊がここに現れて来たのです。ああ、恥ずかしい。もうお暇いたします」
 
 男(亡霊)は大勢いる商人の影に紛れて阿倍野の方に帰りかけたが、酒売は男を引き止めた。


 酒売
 「不思議だ。するとあなたはもはやこの世にはいない人なのですか。ともかく、もう少しここに残って、昔の友との名残をおしのびなさい」

 男
 「そうだ、今はちょうど秋の暮れで、松虫が鳴いている。あれは私を待っている声だろう」

 酒売
 「そもそも、心のない虫の音を、『私を待つ声』などとは本当らしくないお言葉ですが……」

 男
 「いえ、ただの虫の音といっても、偲ぶ友を待って鳴いているからこそ、歌にも詠まれているのです」

 酒売
 「なるほど、思い出しました。古い歌にも『秋の野に…』」

 男
 「そうです。『人松虫の声すなり 我かと行きていざ弔はん』と詠まれているのです。あなたたちも私たちを弔おうと思し召すのですか。ああ、ありがたい。これぞ誠の友というものです」

 男は松虫の音に誘われるようにして帰っていった。

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謡曲『松虫』 一

 (只今ネット落ち中です。タイマー投稿によりお届けしています。)

 暑かった夏も終わり、秋の気配がしてまいりました。夜、窓の外からはりんりんと秋の虫の声が聞こえてきます……と、いうわけで、今回は謡曲『松虫』をお送りします。

 謡曲(←能の脚本のことですね)『松虫』は、世阿弥の作とされる夢幻能(幽霊や神、精霊などと出会う話)で、舞台となる場所は摂津国・阿倍野(現大阪市南部)です(この曲にちなんで「松虫塚」という所があるそうです)。
 話の流れは、摂津国の酒売りの男が、ある男の幽霊と出会い、彼の昔語りを聞くというものです。それで、男がなぜ幽霊となって現れるのか、というところにBL的なモンがあるんですが……。
 内容は単純ですが、文体(台詞回し)が複雑なので、やや難解です; BL要素も薄いのでアレなんですが、まあ基本ッちゅーことで読んでみてください。


◎謡曲『松虫』

 酒売(自己紹介)
 「私は摂津国・阿倍野のあたりに住んでいる者です。私がこの阿倍野の市に出て酒を売っておりますと、どこから来るのか分かりませんが、若い男たちが大勢やって来て酒を飲み、帰りがけには酒盛りをして帰っていくのです。なんとなく不審に思われるので、今日も来たならば、どういう者か、名を尋ねてみようと思うのです」

 酒売が市場で待ち受けていると、男が数人の連れと共にやって来た。

 男
 「昔の秋にまた逢うことを待ち焦がれて、松虫の鳴く音を聞くと、友のことが思い出される……。
 秋風が吹いて、夜が更け行くにつれて、さすがに長月(九月)だ。有明の月を残したまま寒い朝の風が吹き渡る。その中を商人たちが打ち続いて、葉草に露のついたままの道を歩いていく。様々な人のいろいろな衣。やがて朝日が出れば、われわれも阿倍野の市へと向かうのだ。
 名は遠そうな遠里小野に程近い住吉の海沿いで、潮風が岸辺の秋の草に吹き、松も響き、沖の波の音が聞こえる中を、声を掛け合って友を誘っていく大勢の市人に交じって、同じように我々も仲間とともに行く。阿倍野の原は面白いものだなぁ」

 といいながら男と友人たちは市に着く。

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『甲子夜話』 その四

 『甲子夜話』第四夜は、「智恩院宮の児(チゴ)」を特集します。とにかく一気にどうぞ!!


◎『甲子夜話』その四 (智恩院宮の児)

<続編九十三巻の(十二)>
 このたび智恩院宮は、御修学のため関東に下向なさっている。よってこの頃ご登城なさった後、ある奏者番(幕府の役職の一)が予(=筆者)の荘を訪れて語った。
 その話というのは、宮は登城の際、児を従えていらっしゃったという。この児は殊に容色があって、殿中みな目を属している(注目している?)という。
 予問う。「それはどういう者なのか」
 「年は十五と聞いた。色は浅黒いが、巧笑美目にして、黛(まゆずみ)をつけ、髪は童にして後ろに垂らし、紫色の衣に長絹の姿……、この子を見て喜ばない人はいないよ。聞いたところでは、公家・芝山某卿の子息だそうだ」
 また問う。「宮に仕えるというのは、何をしているのか」
 「宮が殿中を往来なさるときは、必ず先に立って行く。宮が御対話なさるときは、下がって坐処にいる」
 奏者はまた言った。
 「ある御勘定はこれを嘲って言ったそうだ。『この児は宮の御滞留中、おそらく二、三年は当地にいるだろう。思うに当方の梅毒を受けて、帰京の日には花(鼻)が落ちてしまうだろう』と。」
 予もこの話を聞いて、その児を欽慕(きんぼ:敬い慕う)した。いつか増上寺に詣でたときに、親しく児の音信を聞こう。

 (後日、高家・某羽林が話したことだが、
 「なるほどこの児の美色は無類である。女になせば男で慕わぬ者はないだろう。殿中奏者は言うまでもなく、番頭などにも席を外して見に行く有様で、甚だしいことには、御目付け大目付なども立ち歩いて行くと言う。ある人は戯れに大目付を咎めたという」
 笑うべし。)


 ↓ 児に興味を持った松浦翁。追跡調査が続きます ↓

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