久々に歴史上の人物モノです。「家光公が男色家であった」ということはもはや周知の事実であると思われますが、こんな話は始めて知りました!
とりあえず、出典と登場人物をご説明しておきます。
■出典■
『翁草(おきなぐさ)』
神沢杜口(1710~1795)著の随筆。前100巻は1772年に成立。後100巻追加。
■本エピソードの登場人物■
*徳川家光:三代将軍。1604~1651。在位1623~1651。
*酒井讃岐守忠勝:家光の側近。のち老中・大老。1587~1662。
*酒井山城守重隆(重澄?):幼少より家光に近侍。1607~1642。
*堀田出羽守正盛:1609~1651。家光の在位と同時に近習となる。
参考⇒Wikipediaと
wolfpac.press.ne.jpさん(「酒井重隆」では検索に引っかからなかったので、原文の誤字としました。)
何はともあれ、これ↓を読んでみてください! すごく衝撃的です。
◎『翁草』巻之七十一(○酒井讃岐守忠勝)
家光公はお若い時、酒井山城守重隆を甚だ御寵愛なさり、忍んで彼の屋敷へ夜中にお行きになっていた。それを伝え承った讃岐守は、よくよく考えた挙句、
「もしこの事を誰かが知れば、ご道中が心配だ」
と思い、自ら家光公の御後から見え隠れにお供申し上げた。
家光公が山城守の家の路地から中にお入りになると、讃岐守は御跡を追って忍び込み、木陰などに隠れて待ち、お帰りの際にはまた、件のようにお供申し上げた。
ある寒い夜のこと、讃岐守は家光公の御草履を懐に入れておき、明け方お帰りの頃、密かに元に戻し、その身は露地の外で待っていた。家光公は御草履がこのように暖かになっているのを不審に思われ、
「これは山城守の心遣いか」
とお尋ねになったが、山城守は「いえ、少しも気が付きませんでした」と申し上げた。
これにより家光公は御心を付けられ、讃岐守が絶えずお供をしていることをお知りになり、その心入れに感謝の意を表された。讃岐守は承り、
「お大切な御身でございますから、以外な御事(許される範囲を越えた行動?)でございます。御近習の者が一人存じましても、もはや大変なことになると思われましたので、ご道中警固申し上げました」
と言うので、家光公は殊の外恥ずかしくお思いになり、それからは夜行をお止めになり、すぐに御城内夜陰の法式をお定めになったという。
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オトナの心を揺さぶる天然フェロモン系美少年と、その奇妙な家族に起こった事件……。ようやくオチにたどりつけます。今回も長いです。
*前回まで*
国司の次官である兄・大夫の介とその弟は、大夫の介の一人息子(=児)を大切に育てていた。この子は美しく聡明で、とても愛らしい子であった。
児が12歳になった年、大夫の介は押しかけてきた女としかたなく夫婦となった。女は、全財産を自分たちのモノにするため継子の児を亡き者にしようと企んでいた。女の仲間の郎等は、児を人里離れた野に連れ出し穴に埋めてしまったが、その後児は偶然通りかかった伯父に助けられた。伯父はこのことを誰にも知らせず、我が家で密かに児を養生させることにした。
◎今昔物語集 巻第二十六 第五話 (後編)
日が暮れると火を灯して、児は粥などを食べるほどに回復した。伯父夫婦がひと安心していると、夜中を過ぎたと思われる頃、今まで眠っていた児が突然目を覚ました。
「これは一体……」
夫婦は児が意識を取り戻したのだと思い、伯父が答えた。
「ここは私の家だよ。こうしているのは訳があって……」
と言うと、児が「父は?」と問う。
「父はまだこの事をご存じではない。国府にいらっしゃるのだろう」
と答えると、児は、
「お知らせしたいのですが」
「ではすぐにお知らせしよう。しかし一体何があったというんだ。こんな事をした人を覚えているかい? すぐに聞いておかねばならないことだからな」
すると児は、
「さあ、よくは覚えていませんが、某丸(仮名)という男が「さあいらっしゃい。伯父の所へ行きましょう」と言うので、母堂に告げて、その男について行ったら、道の途中で、その男が山芋を掘ると言って穴を掘って、私を引き落とした、というところまでは覚えています。それから後のことは分かりません」
と答えた。そこで伯父は合点した。
「その男の仕業と言うことであれば、自分からそんなことを考えるとは思われない。誰かがそそのかしたに違いない。きっと継母の策略だろう」
夜が明けるのも待ち遠しく、早く早くと気が急いて、朝が来るのと同時に出立の用意をした。そして妻に返す返す言い置きをして(児をかくまっていることを秘密にするように)、児に何か食べさせて後、従者たちを呼び集めて兄の許へ向かった。
到着してみると、家の中はひっそりとしていて、人は幾人もいなかった。伯父は継母に会い、「介殿(大夫の介)は」と問うた。すると継母は、「国府ではないですか」と答えた。
「申すべき事があって参ったのだ。では児は。それも国府にいるのか」
そう尋ねると、これを聞いた継母は、
「浅ましい事を。あの子は昨日から姿が見えません。そちらにうかがっているらしいと思っていたのですが、どういうことですか。もしや、私の心を惑わそうとしていらっしゃるのですか」
と言って、ただ泣くに泣いた。伯父父(伯父である父←ヘンな言い方;)は、何と憎たらしい女だろうかと思ったが、しばらくは誰にも知らせないでおこうと思い、
「奇妙なことだ。人を騙すにしても言い様があるものだ。しばらくあの子の姿を見ていないので気がかりで、それで会いに行こうと思っているだけだ」
と言ったので、「それではこれはどういうことだ」と二人して大騒ぎした。
「児を捜し求めよ」
と言う声を聞き、例の児を生き埋めにした男が出て来た。そして誰よりも勝って、泣きながら児を探していた。
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オトナたちの欲望のため、命を狙われる美少年。前編からの続きです。ちょっと長いです。
*前編のあらすじ*
国司の次官である兄・大夫の介とその弟は、大夫の介の一人息子(=児)を大切に育てていた。この子は美しく聡明で、とても愛らしい子であった。
児が12歳になった年、大夫の介は押しかけてきた女としかたなく夫婦となった。女は、全財産を自分たちのモノにするため継子の児を亡き者にしようと企み、一人の郎等を味方に引き入れた。郎等は財宝と地位が欲しさに児殺しを計画し、「伯父上のところに行きましょう」と言って児を誘い出した。
◎今昔物語集 巻第二十六 第五話 (中編)
児の伯父の家は、五町(約550m)ほど離れた所にあるのだが、誰にも知られずに、はるかに四、五十町(約4~5km)の所まで連れ去り、野に入ることができたのを、郎等は嬉しく思った。道でもないような方へ遠く連れて行くと、児が言った。
「どうしたの。いつも行く道でなくて、どうしてこんなところを行くの」
だが「これも同じ道です」と言って、また二、三十町ほど進み、馬を止めた。
「しばらくそこにいてください。ここに山芋があるのです。掘って見せてさし上げましょう」
しかし、児は何となく心細さを感じ、
「どうし山芋を掘るの。はやく行こう」
と言う顔の、上品で美しく可愛らしいのを見ると、郎等は、
「ああ、どうしたものか。あの人(女)のことを大事に思うからといって、この子も無縁の人だろうか。介殿(児の父)も、どれほどお悩みになるだろうか……」
とそら恐ろしくなった。それでも、木石の心(非情)を起こして土を掘った。その様子を見た児は、「これは本当に山芋をただ掘っているだけだ」と思い、
「どこ、山芋は、山芋は」
と盛んに言った。この子の味方であれば、悲しさに耐えられないだろうと思うと、涙が出る。それを「我ながら心弱い、こんなことでは」とこらえ、目を塞いで、児を穴の中へ引き落とした。児は怯えて泣いたが、郎等は顔を外へ向け、児の着物をはいで穴に押し入れた。
「ああ、なんてひどいことをするの、お前は。私を殺してしまおうとしていたんだな」
と児は言うが、あとは物も言わせず、ただ土を入れて踏みつけた。郎等は焦り、心が迷っているまま、よくも固めないで慌ててその場を去っていった。
帰ってきた郎等を、女は素知らぬ風で迎えた。だが、児が、首に抱きついて「伯父のところへ行ってきます」と言った顔つきが面影に思い出されて、
「私は、何に狂ってこんな事を考えていたのだろう。実の母もいない子なのだから、私が大切にしてあげれば、孝行を尽くしてくれたに違いないのに。この娘より外に、私にも男の子はいない。もし、このことが公になれば、かえって我が道も絶え、この子のためと思っていた娘にとっても何があるか分からない。この郎等は極めて幼稚に見えるのに、少しでも手違いがあったら、言い出してしまうかもしれない」
と、今までのことをすべてやり直したい気になるのだが、殺してきてしまったのだから、どうすることもできなくて、苦々しく、納戸にこもって泣いた。
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