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梅色夜話

◎わが国の古典や文化、歴史にひそむBLを腐女子目線で語ります◎(*同人・やおい・同性愛的表現有り!!)

「僧の一念衣魚と成事」(『怪醜夜光魂』より) 後編

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 例年のごとく、しばらく更新休止します。8月復活予定です。
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 さて、後日談です。
 (前回のあらすじ)
 嫉妬深い念者・栄山は、若衆・浅之助が時右衛門と同座したことに腹を立てて、浅之助を刺殺、自らも命を絶った。




 ある夜、両親の夢に、浅之助が在りし日のままの姿で現れた。
 「私は思いがけず刃にかかり、早くこの世を去りました。本来永らく悪趣(地獄など)に堕ちるべきところを、幼いころから地蔵菩薩を信じ、殊に七七日の弔いの功徳により、またこの世に生をうけることになりました。
 来る霜月十一日に、西近江絹川村の角兵衛という百姓の男子として生まれます。
 また、栄山は幼少から釈門に入りながら、仏道にうとく、婬行を専らにし、罪のない私を害した報いにより、衣魚(しみ)という蟲に生まれかわります……」
 そういうかと思えば、夢は覚めてしまった。両親は驚き、夢を語り合ったところ、ふたりの見た夢には少しの相違もなかった。
 
 そこで絹川村に行き、角兵衛を尋ねると、先日男子を平産したということだった。
 両親が角兵衛へ事の次第を語り、生まれた子を見ると、わが子浅之助の幼い時の面影に、すこしも違うところがない。両親は角兵衛にむかい、
 「この子はやはり、わが子の再来です。どうか我々にゆずってください。ほかに子供もいないので、この子に跡を継がせたいのです」
と言った。角兵衛も、
 「終始お話を聞いたからには、どうして辞退しましょうか。そのうえ、わが子供たちは大勢いますから、お譲りいたしましょう」
 両親は大いに喜び、子供をもらって、浅次郎と名付けて養育したという。

 さてその後、三形時右衛門の家に、大きさ一寸ばかり(約3センチ)の衣魚が多く発生し、衣類書物はいうまでもなく、器財(器・道具類)までも蝕んでいた。
 取り捨て取り捨てしたけれども、日増しに数が増え、害をなすことがおびただしくなった。
 この蟲こそ、松巖寺の栄山の一念であろうと、誰ともなく言うようになった。時右衛門は難儀して、ある僧に頼んで事情を説明すると、この僧は、一紙に文を書いて言った。
 
 「茲(ここ)に蟲あり、衣魚と名づく。其の形魚に似て其の尾二岐に分かれるゆえ、白魚・蛆魚・壁魚の名あり。日増しに子孫を育長し、仏経書籍を食い破ること、仏法僧の讐敵なり……。
 汝は釈門のし徒、なんぞや男色にまよひ、咎なき人を殺し、其の身も白刃の上に伏して此の蟲となる……。
 人のにくむところ、世のいましむる所、早く心を改め正道に赴き、生を転じて真元に帰れ」

 読み上げると、これに感じたのだろうか、数万の衣魚は一同に死んだという。



 数万の虫がいっせいに死んで……、ああ、その後の光景は想像したくないッ!!
 今回一番の被害者は時右衛門さんでしたね。虫は最強最恐のいやがらせです; そういえば、以前も死後虫となって復讐しにきた僧がいました→。うう、悪寒が……。

 かわって前回の被害者・浅之助くんは、ちょっぴり救われましたね。まさか生まれ変われるとは!!
 しかし、ご両親の夢の中で語った栄山の実態というのはヒドい! 浅之助くん、この人のどこに惚れたんだ!? だまされていたんでしょうか……。

 そいうえば、時右衛門さんは、生まれ変わった浅之助くん(浅次郎)についてはどう思っているのでしょうか。十数年後、昔と変わらない姿のままの浅之助くんを見て、また心動かされたりするのでしょうか。(しかしその時の年齢差、20は越えてるはず……)
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「僧の一念衣魚と成事」(『怪醜夜光魂』より) 中編

 ようやく続きです。
 
(前回のあらすじ)
 時右衛門は若衆・浅之助に恋文を送ったが、浅之助はすでに念者(坊主・栄山)がいることを理由に断った。
 寺の一室で友人と将棋遊びをする浅之助の前に、時右衛門が現れた。時右衛門は、将棋の勝負の行方よりも、浅之助の姿に見とれていた。





 「時右衛門が私に心をかけていることは、栄山も知っている。この人と一座をともにするなんて、なんとなくうしろめたい気がするのに、まして栄山は悋気(=嫉妬)深くて疑い深い人だから、はやく帰りたいとは思うけれど……。
 今日は私が誘った遊びだから、私が帰ってしまったら、一座の不興はどれほどのものになるか……」
 浅之助は気の毒を胸につつみ、なすすべもなくその場にいた。
 将棋が終わった後は酒宴になって、ようやく初夜(戌の刻・午後7時~9時)のころ、人々は打ちつれて帰っていった。

 栄山は夜更けに寺に帰ってきた。浅之助が時右衛門と一座をともにしていたという噂を聞き、納戸坊主をよんで詳しくたずねると、この坊主は日ごろから栄山に意趣をもっていたため、急き立たせてからかってやろうと思い立ち、跡形もない嘘をまぜて話した。
 真に受けた栄山は大いにいかり、翌日浅之助のもとへ行き、右の段々を語って腹を立てると、浅之助は
 「たしかに、時右衛門とは思いがけず同座しましたけれども、全く言葉もかわしませんでした。そのときの友人は誰々です。これが証拠です。誰にでも尋ねて、疑いを晴らしてください。
 かねてから私の心はご存知なのだから、お尋ねになるなんて必要のないこと……」
 言いも果てないうちに、栄山は懐に持っていた小脇差を抜き出し、浅之助を引き寄せ、「不心中者よ!!」と刺し殺し、自身も自害して死んだ。


 浅之助の両親は大いに驚き、出家の身にたった一人のわが子を殺されたことの腹立たしさ、そのうえ、日ごろわが子と仲の良かった人が、このようなことをするとはどういうわけなのだろうと、栄山を恨みいかりながら、是非なく浅之助の亡骸を納め、ねんごろに弔った。(つづく)




 なんという怒涛の展開! なんだか昼ドラを見ているようでした。
 悋気に意趣。人の心の闇の怖さ、ですね。

 さて、かわいそうにも殺されてしまった浅之助くん。彼の心中の描写を見ると、嫉妬深い恋人をもつ苦労がうかがえます。以前、時右衛門からの恋文をことごとく無視したのも、栄山さんに変な疑いをもたれないようにするためだったのでしょう。 それほど、栄山さんのことがすきだったんですね(たぶん、普段はものすごく優しい念者さまなんでしょう)。

 そんな栄山さんが突然の暴挙に!! もともと嫉妬深い性格とはいえ、浅之助くんが心底惚れている栄山さんを、そこまで怒らせるとは、一体何を言ったんだ、納戸坊主は!!「お前の若衆、陰間野郎」とか?
 日ごろ仲良くしていた、しかも出家の男にわが子を殺された両親の怒りと戸惑いも分かります。確かに理不尽な殺人……。
 しかし、そんな栄山さんをすこし擁護するとすれば、やはり浅之助くんを殺したあと、自分も自害しているところでしょうか。普通は、そのまま逃げちゃいますよね。深き愛ゆえの殺人心中、痛いです。


 次回は今回の話の後日段。今回は精神的な怖さがあったのですが、次はちょっとヴィジュアル的に怖いお話です。

「僧の一念衣魚と成事」(『怪醜夜光魂』より) 前編

 夏ですね。今回はちょっと怖いお話を取り上げようと思います。


◎『怪醜夜光魂』
 「松巌寺栄山といふ僧の一念衣魚と成事」


 江州高宮(現滋賀県)の里商人の子に、三好浅之助といって、十五歳、袂には慈童が愛した菊花の匂いも芳しく、容顔は弥子瑕が食さしの桃の色のようであり、思いを寄せない者はいなかった。
 同じ里に、三形時右衛門という色好みの若者がいた。いつのころか浅之助の姿を垣間見、胸の煙は伊吹の山のよもぎのように立ち上り、恋路の深さは琵琶の海になぞらえられるほどであった。寝ては夜の衣をかえし、起きては茶筅髪(ポニーテールみたいな結い方)と乱れる有様であったが、誰が取り立てて言うこともなかったので、身もやせて、恋の奴に成り果ててしまった。

 なんとかして浅之助の便りを聞き出した時右衛門は飛び立つようによろこんで、数々の文を遣わしたけれども、一言の返事もこない。時右衛門はいよいよやるせなく、思い乱れてしまったが、今度は文の言葉は書かずに、

 つれなしと忍にたつ名ぞおしまるるうき身はかくてこがれしぬとも

と、歌だけを伝えたところ、どう思ったのだろうか、浅之助の方から返事があった。
 時右衛門はうれしくもあり愛おしくもあり、開いてみると、
 「つたないわたくしが、”さわり”と申すのはお恥ずかしいことですが、かねてから言い交わした人がおりますので、御断りながら……」
と書かれていた。
 見るなり時右衛門はあきれ果ててしまったが、「いったい誰が、うらやましくも花の主に先駆けたのだろうか」とねたみ心が起こって、その知音の人(=恋人)を聞き出したところ、松巌寺という浄土宗の弟子坊主・栄山という者であった。 【“「僧の一念衣魚と成事」(『怪醜夜光魂』より) 前編”の続きを読む】

本朝御小姓列伝~蘭丸特集~ 四

 『朝野雑載』収録の信蘭エピソードも今回が最後です。


 橘を多く台に積んで、森お蘭是を披露す。信長公御覧有て、
 「おらん、其方が力にてはあぶなし。倒るるな」
と仰せけるが、案のごとく、台をもちながら倒れたり。みかんも座中に散りければ、信長公、
 「それ見よ、我目ききは違はず」
とわらひ給ふ。

 其後、或人おらんに向かひ、
 「御前にてあやまちし給ひ、笑止なり(気の毒に)」
といひければ、おらんが曰く、
 「少しも迷惑せず。信長公あぶなしとおほせつるに、この台をよく持ちとどけぬれば、御目きき違ふ故に倒しなり。御座敷にてたほれたりとて、武道のきずにはならず」
と答えけるとかや。




 みかんを台に沢山つんで、信長さまの御目にかけるお蘭(何目的? 親戚から送られてきたんだな、きっと)。
 それを見た信長さまは、「お前の力ではあぶない。倒れるなよ」とお声をかけます。 えええッ、なんか優しーぞ!? 信長さまってそんなコト言う人だったのか? 「お前の力」って! お蘭の力知ってんのかッ!?
 …しかし、お蘭はやはり、みかんの積まれた台を持ったまま倒れてしまいます。信長さまは得意げに、「やっぱり俺の思ったとおりだ」とお笑いになりました(ドジっ子おらん萌?)。

 並みの人間なら、殿の御前で転ぶなんて、恥以外の何物でもありません。面目丸つぶれ。ですが、お蘭はそれよりも、信長さまの目利き(判断・予想)を実現させることを優先し、"わざと"倒れていたのでした。


 やはり蘭丸さまは、日本一気の利く御小姓だ!! でも嫌々仕えている、という感じがしないのがいいですね。思慮深くて、謙虚な部分もあるけれど、それがかえって自分にプラスの結果をもたらしてくれることを知ってるんでしょうね~。 もしかすると、すべては計算済みの行動なのかも知れません(小悪魔萌!)。


 さて、今までのエピソードを振り返ってみると、う~ん、信蘭ってなんというかツンデレ?、と思えてきました。みんなの前では、蘭丸に次々と試練を課す信長さまですが、それも愛ゆえというか、蘭丸をほめる口実というか……。
 蘭丸もそれを分かってて付き合って(あげて)いるような感じがします。ありきたりだけど、やっぱり二人の間には、特別な絆があると思いたいですね。